『GHOST』第2話の流法(モード)

『GHOST』第2話が公開された。制作期間は2023年の12月から2024年2月までで、いつも通りネーム、下描き、ペン入れ・仕上げとひと月づつに分けての作業だった。

『GHOST』第2話

年末は忙しくてもそうでなくても気が沈みがちになるものだが、この12月はプライベートでバッドなことが2発あって結構落ち込んでいた。「うわ、ショックだよ。もうこんな状況無理だよ、消えてぇ〜」って感じで、まる1日何もせず、じっと布団で寝てるだけの日を過ごした(気温が下がった上に買い替えたばかりの布団がフカフカで気持ち良すぎるというのもある)。

そのまま眠り、夜中の3時くらいにふと目を覚ました。歯ぎしりによるダメージの蓄積を口の中に感じる。トイレを済ませ、寝汗でグショグショに濡れたシャツを着替えた。頭も風呂上がりくらい濡れていたので軽く水道で洗った。冷たい水が気持ちよくて頭が冴えた。汗でジクジクの枕は一瞬どうしようかためらったが、さっき頭を拭いたタオルを2つに折って枕の上に敷いてから頭をあずけた。加湿器を炊き過ぎなのかも知れない。

放尿と着替えと洗髪でクリアになった状態で横になっていると、どうしても2発のバッドな出来事について考えてしまい、眠るのを諦めた。かと言って何もしたくないので、コーヒーを淹れてボンヤリ飲んだ。自分の人生にはこの先楽しいことはもうあまりないのかも知れない、と思う。気づくと行き止まりに追い込まれていたような、今までの自分がずっと間違っていたような気分になった。

静けさが疎ましくなってイヤホンを耳にねじ込んだ。数年前からサブスクで音楽を聴くようになった。新しい曲も聴き放題だけれど、よく聴くのは古いものばかりだ。それも中学・高校時代に聴いていたものを「懐メロ」として聴いている。そんな自分を「おっさん丸出しでヤバい」と戒めているけれど、構わずNOFXの『Punk in Drublic』を再生した。高校の行き帰りの自転車で何度も聴いたアルバムだ。

当時が特別楽しかった訳ではないし、むしろ今と同じようにダサくてみじめで、何も考えてないバカだったけど、振り返ると懐かしい。とるに足らないことだけれど本人にとっては重大な喜びや失敗や後悔が思い返され、ちゃんと生きてたな、と思う。当時の自分に言葉をかけてやりたくなる。なんと言ってやればいいのか分からないが、何か肯定的な言葉を。

飲み終えたマグカップを持って流しに向かう。同じマグカップで水を汲んで口をゆすぐ。うっすらコーヒー色の水をシンクに吐き出した。歯に色素が沈着するのを予防するためにこの習慣を続けている。

中年が「懐メロ」を好むようになるのは、自分の人生の全てが間違っていたわけではなく、少なくても肯定したくなる一瞬があったと思いたくなるからなのかも知れない。

アルバムの8曲目でOi Oiコーラスが威勢のいい「The Brews」を聴きながら、そのまま手にしていたiPadでドミノピザのサイトを開き、夕食にめちゃくちゃデカいピザを注文した。店舗での受け取りを19時に指定して、その前に向かいのドラッグストアでビールをしこたま買おう。今夜はひとりでドカ食いだ。そう決めて布団に戻りテレビをつけ、Netflixで『キャロルの終末』(最高だった!)を一気観した。

こういう感じのLOWなテンションで正月休みに突入し、黙々と作業を続けて『GHOST』第2話を描き上げました。このブログは制作振り返り日誌のようなものを書くつもりでやってるのですが、「大変だった」とか「苦労した」とか毎回同じ事を書いてるので、今回は「どんな気分だったか」ということを書いてみたんですが、読み返すと基本的に自分はずっとこんなモードでやってますね。まあ、次回もまた3ヶ月後の予定ですんでヨロヨロの四苦!!

『GHOST』第2話の流法(モード)

『GHOST』第1話 雑感

『GHOST』1話目制作について

久しぶりの連載作品だ。この作品の前は『THIS TOWN』と『LONG SLOW DISTANCE』という2作を描き下ろしで作った。ゴールを見据えて作画していく描き下ろしの方が気楽だなと思った。

この連載も一応ゴールまでのプロットは考えているが、各話ちゃんと面白く仕上げられるのかはやってみないとわからないことなので、不安がある。この第1話を描いている間も「2話目以降どうしよっかー」と常に考えていた。第1話がこうして公開された今は、その第2話の作成にかかりつつ、3話目以降に悩んでいる。

去年『LONG VACATION』の単行本が出たあと、担当の編集者さんと「次どうします?」と電話で話した。そこで提案されたアイデアから出発して、最終的にこの『GHOST』になったが、1年以上の時間がかかった。そう言うと「1年がかりの大作」という感じがするが、前述の描き下ろし作品にとりかかっていただけなので、めちゃくちゃ時間かけてて申し訳ない気もする。ただ振り返ってみると本人の体感ではほんの一瞬で、こうして人は簡単に歳をとるのだと思う。

タイトルは色々と考えて「GHOST」にした。常々プロフィールで「好きな作家はダニエル・クロウズ」と言っているので、読んでる人にはあえてこのタイトルにした気合いが分かってもらえるんじゃないだろうか。ちょうど映画『ゴースト・ワールド』の再上映もあって、不思議なタイミングを感じた。

今回描いていて一番楽しかったのは、冒頭のハンサム野村の舞台シーンだった。彼を芸人と設定した以上、ネタをやっているところをちゃんと描く必要があるなと思っていた。「芸人ってどうやってネタ書いてるんだろう」と前々から疑問だったのだが、自分でやってみたら難しさもあったが楽しかった(面白いかどうかは置いといて)。ハンサム野村は、アメリカンなスタンダップコメディを目指している設定なので、ネタを書くにあたってNetflixで色々動画を観たり、エイドリアン・トーミネの『Killing Joke』なんかを参考にした。関係ないけど、ああいう喋りのジョークを面白く翻訳するのってめちゃくちゃ難しそうだな、と思う。

彼のネタの中で「怪談で一番多く使われるイニシャル」については、実際に自分で調べた。家にある百物語形式の実話怪談の本を4冊(400話)に出てくるイニシャルを全部数えて、導き出した答えです。そういえば昔、大学で『源氏物語』を研究しているという教授が「物語の中に何個『源氏』という単語が使われているか、そういうのを数えるのが研究だ』と言っていて、その行為に何の意味があるんだろう、と漠然に思ったことがあったが、20年以上経って同じようなことをやってる自分がバカバカしくてよかった。

『GHOST』は全7話を予定していて、COMIC MeDuにて3ヶ月に1本のスケジュールで連載していくので、これから約1年半になりますが、最後までゆっくり付き合っていただけたらと思います。

『GHOST』第1話 雑感

2023コミティア雑感

自主制作した『LONG SLOW DISTANCE』を手売りするため、9月に東京と名古屋で開催されたコミティアに参加した。遠出をすること自体がかなり久しぶりだったので、楽しかった。

コミティアで販売する本はあらかじめ会場に宅急便で送っておくんだけど、売れ残るとこれをまた会場から自宅に送り返さないといけない。これが憂鬱で、できればやりたくない。理想はちょうど売り切れて、手ぶらで帰ることだ。ただ参加する目的は「1冊でも多く本を売りたい」なので、最小の冊数だと意味がない。で、だいたい多めに持って行き、憂鬱な顔で売れ残りをダンボールに詰め直し、宅急便のラベルを貼る。

コミティアは会場に運送会社が来て、荷物を受け付けてくれる。東京会場のイベント終了後に荷物を持って行こうとしたら、めちゃくちゃ行列ができていた。以前も少しは並んだように思うが、今回は果てしなく並んでいた。仕方がないので列の最後尾についたんだけど、15分待って2歩くらいしか進まなかったので、荷物を抱えて会場を出た。そのままゆりかもめに乗って新橋まで戻り、コンビニを探して荷物を送った。名古屋会場は混雑なくあっさりと荷物を送れた。

東京と名古屋はそれくらい規模が違う。売り上げも名古屋は東京の半分くらいだった。でも雰囲気の良さは断然名古屋会場だった。明るいし、テーブルも椅子もゆとりがあるし、床は絨毯張りだった。BGMも東京は古めの洋楽が中心だったけど、名古屋はダンス系やJ-POPがメインで華やかだ。外には白くて馬鹿でかい騎馬像まである。

笑うほどデカい

今回のコミティアでは、何人かの人が会いに来てくれた。以前の作品や単行本を読んでくれた方や、SNSでフォローしてくれてる方たちだ。そういう場合みんな作品の感想を伝えてくれるのだが、「あざっす、へへへ…」みたいな返事しかできなくて恥ずかしい。もっと気の利いた返しはできないものか、と思う。あと、サインをお願いされることもたまにあるんだけど、その場合は基本的に素直に自分の名前だけを書いている。「おまえが舵をとれ!」みたいなメッセージとか、キャラクターのイラストなんかを添えた方がいいかな、とも思うのだが、下手なことしてミスるとヤバいのでやらないようにしている。頼んでくれた人達には「愛想のないサインですみません」という思いしかない。

イベント終了後はせっかくの遠出を楽しんだ。東京ではお世話になってる方達と歌舞伎町で飲んだ。めちゃくちゃ人がいてびびったが楽しかった。この日はホテルをとっていたので、ガッツリ飲んで一泊した。翌朝は特に予定はなかったので、昨夜おすすめしてもらった喫茶店に向かったが休みになっていた。「とりあえず」と駅に向かい、なんとなく中央線に乗ったら東京駅についてしまい、流れで新幹線の切符を買っておいたら、9:30くらいののぞみに乗っていた。座席で一眠りしたら、昼には大阪に戻ってしまった。

名古屋では、終了後に大須に向かった。本を買いに来てくれた方に「名古屋のホットスポット」と教てもらっていたので、期待して地下鉄駅から出たら、15時過ぎの西陽がめちゃくちゃ暑かった。

とりあえず大須観音におまいり

この日は昼食をとってなかったので、ガツンとしたもの食ってビールを流し込みたかった。名古屋なので味噌カツとか手羽先とかうなぎか、と狙いを定めてホットタウン大須を歩き回った。ただ、連休中日の大須は夜の歌舞伎町より人がごった返していた。店を見つけてもだいたい並んでいるし、そもそも時間的に「準備中」のお店ばかりだ。汗だくになりながら商店街から裏路地へと歩き回り、40分くらい経過し「最初に見つけたお店に並んでおけばよかったな」と思った時点で心が折れ、タクシーを捕まえ名古屋駅へ戻った。

駅ビルのレストランコーナーでトンカツ屋に入り、ようやく人心地ついた。セクシーなロースカツに、思わず「サイコー」と言葉を漏らしてしまった。

Da Ya Think I’m Sexy?

味噌だれを頼んだが、甘すぎたのですぐに普通のトンカツソースで食べた。お味噌汁はめちゃくちゃおいしかったので、味噌はスープ状にして味わうのが一番だとなのだと思う。

こういう感じで「夏のコミティア東名ツアー」は終わった。今後のイベント関係はしばらく予定はない。これからは次の作品に向けて、ひたすら制作の日々って感じでやっていきます。よろしくお願いします。

この間、売り切れた過去作の再版予定はないのか、と聞かれることが何度かあったんですが、残念ながら予定はないんです。全部PDFにして雑にネットに上げておく、って方法も考えたんだけど、もともと本が作りたくて始めた活動だし、ちょっとためらってしまう。作品自体に愛着はあるので、もう一度くらいは本にして読めるようにしたいと思っている。そのまま再版でもいいし、まとめた作品集にしてもいい。ただ、こういうのは時間とお金と労力がかかるし、ちょっと今は制作に集中したい。だからいいタイミングがあればって感じなんだけど、もしくは代わりに誰かやってくれない?とも思う。まあ、気長にお待ちください。

2023コミティア雑感

『LONG SLOW DISTANCE』について

『LONG SLOW DISTANCE』という本を作った。久しぶりの自主制作になる。巻末に掲載した解説ではカットさせてもらったが、この作品の制作経緯について書いておこうと思う。

この作品は、元々とあるマンガ雑誌に連載するために準備された。記憶では2022年の春頃にそういう依頼をいただいて、半年ほどかけてプロットやネーム作りを進めた。最終的に冒頭2話分のネーム(マンガのラフ)を描いて提出したが、編集会議でボツになった。理由も聞かせてもらったが、よくあるダメ出しクリシェのような内容だったし、自分にもそういう弱点の自覚があるので、要は「箸にも棒にも引っかからなかったのだな」と納得した。

ボツになった案にこだわっていてもしょうがない、というのはこの世の習わしで、マンガでもそうだし、普段会社で仕事をしてるときも心掛けていることだけど、この時は少し迷った。自分は「失敗してもそこから何かを学び、それを次に生かすことが成長なんだ」とか言う居酒屋説教みたいな考え方には1ミリも賛同しないのだが、このボツ案は捨てずにここからもっと面白いものを考えた方がいいのでは、と思った。

というのも、半年ほどこの作品に向き合っているうちに、登場人物について「彼らはどうすれば報われるんだろうか」と考えるようになっていたからだ。特に安田についてはかなり考えていた(染川と村上についてはある程度プロットは出来ていた)。愛着とかではないのだが、彼らをあっさり捨ててしまうのは忍びなかった。彼らがどういう答え(納得できる正解)を出すのか、という所までは行けなくても、どんな場所に辿り着くのか、は描きたいと思った。

そこで、当初は単行本1冊くらいのボリューム(200ページくらい)で考えていたプロットを圧縮して、物語を語り直すことにした。提出した2話分のネーム(70ページくらい)を削って再構成し、足りない部分や結末を新たに描き加えた。割合的には初期ネームを流用したのが60ページくらいなので、追加した部分とちょうど半々くらいになる。この作業はやっていてとても楽しかった。

再構成で変更したポイントは、染川をメインに据えたことだ。そうすることで、物語に一本の筋がきれいに通ったように思う。元は村上をメインに、中年男のブルースという感じで考えていたのだが、どうもしっくりこなかった。安田に関しては、どう描くかとにかく悩んでいて、その末に「描かなくても成立する」と考え、圧縮する過程でバッサリ削った。ここはもし連載で描いていたら苦戦する予感があったので、こういう形で着地できてよかったと思う。

この作品は自分の今までの作品と違い、セリフが縦書きでページは右開きになっているが、それは掲載予定だった雑誌に合わせたからだ。縦書きセリフはマンガのコマ内の人物に干渉しやすくて画面に収めるのに少し苦労したが、やってるうちにすぐ慣れた。今はどっちでも描ける気になったし、こだわりもちょっと薄れた。ただ、セリフを手書きしていく作業では、横書きよりも縦書きの方が書きやすかった。これはやっぱ日本語の構造というか成り立ちが縦書きなんだなと思わされた。

そういう感じで、『LONG SLOW DISTANCE』の販売や営業活動を細々とやりつつ、受かっていれば9月の東京と名古屋のコミティアに出ます。よろしくお願いします。
作品自体はこちらから通販で買えます(BASE)

もちろん、次の作品についてもずっと考えていますので、どういうものになるか未定ですが、こつこつと日々働きつつ、ビール飲みながら形にします。ではー!

『LONG SLOW DISTANCE』について

LONG VACATION5制作記

「LONG VACATION」第5話「サンセット」公開中です。

リンク〈LONG VACATION 第5話〉

去年に以上にコロナウイルスが猛威を振るっていたので、5月の連休もひたすら家でマンガを描いていた。おかげで今回はあわてることなく、早めに仕上げられた。

内容については読んでもらうとして、作画について少し。

前半で釣りをするシーンがあるが、釣竿の絵に苦労した。竿やリールはネットで画像を調べてだいたい把握していたが、実際に釣りをするときどういうムーブになるのかがよく分からなかった。

自分の釣りの経験だけではちゃんと絵にするのが難しく、いろいろ調べた。一番参考になったのはYoutubeだった。いろいろな人が「竿の構え方」とか「ルアーの飛ばし方」を動画で解説してくれている。画質もいいし、好きなところでストップできるので、絵の参考にしやすかった。

実は動画を参考資料にすることはちょくちょくあって、この「ロンバケ」でも「新幹線の車窓からの景色」や「フェリーの出航シーン」はYoutubeの動画をいくつか見ながら描いた。こういうのは旅行の思い出としてかなりアップされている。また前回のスケートボードのシーンも、Youtubeにあるスケートビデオを参考にした。

といった具合に、マンガ制作に有用なYoutubeだが、最近アプリを削除した。延々と動画を見てしまって、時間をムダにするからだ(特に土曜の朝)。あと広告もムカつくし(「AIであなたの車に最適のタイヤを見つけよう」なんてアピールにどんだけの意味があるわけ?)。

ただいつかは必要になって、また手を出すことになるだろう。ヤダネ〜。

LONG VACATION5制作記

LONG VACATION制作記4

コミックMeDuにて
「LONG VACATAION」第4話「フォトグラフ」公開です。
リンク〈LONG VACATION 第4話〉

今回の制作記は特記事項なしというか、書くのサボって時間が経ってしまったので省きます。見直すとタイトルは「スケートボード」の方がよかったな、と思っています。

ただ、作中に出てくる駅前集合のシーン(上画像)は、実際に近くの駅まで行って参考用に写真を撮って来ました。近所と言っても3駅ほど離れているので、自転車で行っても割としんどかったです。何の思い入れもない場所です。実際の写真と、自分がマンガにした時の絵の落差を見比べてもらえれば、ちょっとは面白くないでしょうか?

そんな感じで、この物語も地味に佳境に差し掛かっています。全6話の予定で、今は5話目の作画を進めています。今年のGWもコロナで鬱屈としたものでしたが、同じようにどん詰まりの休暇を過ごす町村が残りの数日をどう過ごすのか、バッチリ描きますんで楽しみにしててください。

ロケした写真
LONG VACATION制作記4

LONG VACATION 制作記3

「LONG VACATION」第3話「ビーチ」完成しました。
コミックMeDuにて無料公開中です。

リンク〈LONG VACATION 第3話〉

作業期間は9月中旬〜12中旬ぐらい。予定ではささっと描きあげて、2020年内に配信を目指してたのだけど、作業が遅れてしまった。おかげで元旦配信になったので、年始の挨拶代わりになって助かった。みなさん、今年もタフな1年になりそうですが、体を大事によろしくお願いします。

今回ラクダが登場するけど、むかし本当にこれくらいの距離で見て、その異様さに驚いたことがある。口の端から胃袋のようなもの(デュラというらしい)をベロベロと出して震わせ、映画やゲームに出てくる怪物のように見えた。

作業にかかる前に(そのころはウイルスの緊迫感も丁度ゆるくなってて)動物園に実物を見に行こうと思ったのだが、調べてもラクダってあまり飼育されてないみたいだった。いてもフタコブだったりして、近畿圏ではどうやら姫路の動物園に一頭だけいることが分かった。ただ、大阪から電車で往復3000円、ほぼ一日潰れることを考えると、今回も取材断念という結論になった。

それと、今回はペン入れをシーン別で進めてみた(いつもはページ順に描いてる)。テレビ「漫勉」を見てるとキャラクター別にペン入れする方がいたので、そのマネをしてみた。作業の進捗具合が把握しにくかったけど、描いていて楽しかったし、同じキャラクターや背景を連続して描くので集中できるし、スピードも上がった。今後もこのやり方でいこうと思う。ちなみに一番最後に描いたのは、ウィッカーマンのコマだった。

そのほか、気に入っているのは居酒屋の名前と、宿のオーナーがはしゃぐところ。沢渡の車はフォルクスワーゲンの「ゴルフ・カントリー」という車種が元ネタ。車はいつも苦戦するので、もっとしっかり描けたらなと思う。

この「LONG VACATION」は全6話を予定していて、今回で折り返しになる。後半はラストに向けて地味にグルーヴしていくので、2021年もお楽しみに〜。

LONG VACATION 制作記3

LONG VACATION 制作記2

LONG VACATION エピソード2「ビーチ」公開になりました。制作にあたった期間は7〜9月で、前回に続き連休が多くて助かった。

この2話目で主人公は休暇をとり、「小匙島」という島にバカンスに出かける。この島は架空の島で、名前のイメージは「小豆島」からとった。そういうのもあって、実際の小豆島まで雰囲気を見に行った方がいいんじゃないかと思っていた。取材したものそのまま作品に使うわけじゃないけど、浜の色とか、生えてる植物とか、建物の形とかを見でおけば、作画もラクになるだろうし。

ただまあ、行きませんでしたね。
コロナがなくても行ってなかったと思う。めんどくさいから。

作品の舞台や風景は、具体的な場所を描くより、記憶や想像をベースに「ない風景」を描くほうが楽しい。ディティールは写真を見たり、資料を探して参考にするけど、基本的にマンガは「ウソ」でいいと思っている。

例えば今回、新幹線のシーンは「ウソ」をついている。新幹線の窓はあんなに大きくないし、1列シートの車両も見たことがない(ファーストクラスみたいなシートがあるのかも知れませんが)。ただ「流れる車窓の景色」を描くなら、あれくらい広い窓の方が見栄えがいいいし、座席の前後関係を見せるなら「隣の座席」が邪魔になる。そういう都合を優先するのは、マンガ的なデフォルメだと思う。

フェリーもいくつかの記憶を混ぜ合わせて描いた。船内にうどん屋があるのは、鹿児島で桜島に渡るときに乗ったフェリーで食べた思い出からだ。味は思い出せないが、しみじみと旅情を感じた記憶がある。

最後に向かう遊園地「スペースランド」は大阪のエキスポランドのイメージ。今は別の商業施設になっているが、家が近くにあったので幼い頃から何度も訪れていて、記憶が濃い。廃業後の打ち捨てられた様子も写真に撮っていたので、それらを見ながら描いた。

絵に関しては、前回からアミの部分(中間色)をカラーにしている。これは自分のルーツであるダニエル・クロウズ「ゴーズトワールド」のマネ。印刷だと2色刷りはコストが高くつくが、Webならインクの問題はないのでやってみていいですか、と編集者に相談したらOKが出た。「Web掲載ってことの可能性を追求したい」みたいなプレゼンが効いたと思う。

作業としてはグレーで塗っていたのをカラーでやるだけでなので何の負担もないし、憧れの2色マンガが実現できたので、個人的にはすごく嬉しい。これはWebならではの強みだと思う。

ただ単行本にするときは、全部グレーに置き換える必要があるけど、それはまた別の話で。
印刷、Webの2バージョンを楽しんでいただけたらと思っています。
リンク〈LONG VACATION 第2話〉

LONG VACATION 3話目は2020年末ごろ発表を目指して作業を進めていますので、気長にお待ちくださいヨー。

LONG VACATION 制作記2

「LONG VACATION」制作記1

LV

この作品は2020年の正月から制作にとりかかったように思う。「思う」と弱腰なのはもうすでに記憶が曖昧だからだ。本でも映画でも2000年代の作品をいまだに「つい最近のモノ」と捉えてしまうような時間感覚で生きているので、年月を把握するネジを2〜3個落としてしまってるんですね。たぶん。

去年の暮れごろに、単行本『LOW LIFE』に向けて原稿の直しや印刷用のデータ作成をしていたころに、「次はどうしますか?」と担当の方から連絡があった。先方からの要望は特になかったが、自分から「あ、じゃあ次は続き物で」と言ってお願いした。

「LONG VACATION」の準備は割と時間をかけたと思う。結末までの道筋を決めずに描き始めるのは不安なので、実際の制作に取り掛かる前に、簡単なセリフとト書きでストーリーを作った。多分2月いっぱいまでかかったと思う。

それからそのストーリーを要約してプロットを書き、担当に送った。それから何度かやりとりを重ね、修正しながら1話目のネームが出来上がったのが4月の中頃だったと思う。「続きモノ」の第1話として、どうやったら興味を引けるのかがよくわからず苦労した。このころからはコロナの不安が世間的にも強くなって、家にいることが多くなった。作品制作に当てる時間が増えて助かったのだけれど、ニュースサイトばかりを追って作業にあまり手がつかなかったりと、メンタル面では不安定な日々を過ごした。

5月は大きな連休もあったし、コロナで仕事が減って会社も休みやすくなっていたので、制作時間が十分にとれた。夜中まで追い込まれて作業をしたりすることもなく、下描きからペン入れまで1ヶ月ほどで終わらせたと思う。

そのあとベタやトーン、セリフの作業にかかった。締め切りは6月中旬だったので余裕を見ていたのだが、仕上げ作業で思いのほか悩んでしまい、最後は滑り込みになった。何度も言っているが、長い作業の末にマンガの原稿を完成させても達成感はあまりなく、「変なミスしてないか」「面白くないんじゃないか」などいつも気を揉んでばかりいる。

内容については作品を読んでもらうとして、いくつか元ネタの紹介をしておきたい。ラストで主人公が観る映画は「I HATE YOU, MORE THAN I LOVE ME」というタイトルだが、これはアメリカのパンクバンドNOFXがこのコロナ期に発表した新曲「I Love You More Than I Hate Me」からとった。ちょうどネームを作成してるころにMVが公開され、ロマンチックなフレーズだと思い、いただいた。

あと主人公が唐揚げを揚げているコマで、片足をもう片方の膝に乗せて立っているシーンにも元ネタがある。楽しく料理をしているポーズとして考えたのだけれど、描きながらこれは絶対なにか元ネタがある、と記憶をたぐったら望月峯太郎の「ちいさこべえ」に、リツが正座でしびれた足をさすりながら台所に立つシーンに同じようなポーズがあった。多分これだろうと思うが、もしくはBOOWYのアルバム「INSTANT LOVE」の裏ジャケに載ってる布袋のポーズかもしれない。どちらも画像を貼るのは億劫なので、興味がある方は各自検索してください。

第2話は9月下旬公開に向けて作業を進めています。コロナも続くし、暑い季節になるけれど、みなさんどうか体に気をつけて、気長に待っててくれると信じてます。勝手に。

作品はコチラから!
LONG VACATION 第1話「ストレス」
(公開無料)

「LONG VACATION」制作記1

SPRING HAS COME(2)

SHC2_blog

ようやくたどり着いた。1話目の「ビールを買いに」から2年が経った。最後はもう一度彼の話を描こうと決めていたので、色々と詰め込んでしまい、ラストエピソードは前後編になった。

元々「ビールを買いに」は自分が無職だったころの体験をベースに描いている。MeDuでの連載はそういった物語をやっていくつもりだったが、1話目以降はもう少しフィクショナルな話になっていった。多分そっちの方が上手くいくと思ったからだろう。自分の嫌な過去を振り返るのは気が重くなるし、楽しくない。それを作品にしていく作業は誇張ではなく膨大なエネルギーがいる。だって数ヶ月間ずっとそのことを考え続けるわけだから。そこから少し離れて、気楽にマンガに取り組むようにした。気楽といっても真剣だったし、実際それで気に入った短編がいくつも描けた。

ただ最後にもう一度「ビールを買いに」に戻ったのは、一連のラストにふさわしいと思ったからだ。あのどこへも行くあてのない状況から、自分の人生は少しずつ変化し、どこかへは進んでいるはずで、それはこの物語の主人公たちも同じだろう。確実にある彼らのその後、そのわずかな変化だけでも示したかった。

なので「SPRING HAS COME(1)(2)」はもう一度昔のことを思い出しながら作った。描かれた職業訓練も実際に自分が受けた体験を元にしている。作中の専門学校の建物もその時に通ったビルをモデルにしていて、学校自体はもう移転してしまってあの建物自体は取り壊されたみたいだけれど、内部の教室も含めて薄い記憶で描いた。実際の訓練はもう少し本格的で、印刷についての講義や協力業者に派遣されて実務体験などもした。受講前には入試のようなものもあったと思う。

漫画の中でオニさんは「こんな授業に意味はない」と言ってたが、自分はこの訓練を受けて、デザイナーとしてなんとか仕事を見つけることができたし、意味はあると思っている。

仕事がない状態というのは、この世の中に自分の居場所がないということを嫌でも実感させられる。働くことが生きることのすべてではないと分かっていても、だ。前作「ビールを買いに」ではその居場所のなさを描いたつもりだ。

自分もいつ無職に戻るかわからない身分だけど、いまあのキツさを味わってる人がいるなら「こういうステップもある」と知ってもらいたい。

何もない無職の状態から、いきなり面接を受けて就職というのはイメージしずらいし、うまくいくのか不安になるものだと思う。そういう場合に、職安や職業訓練といった機関を利用するのはいいと思う。0から1に進む前に、0.2、0.5と準備のステップを踏んで、働くことやそんな自分を少しずつでも想像していけるだろう。

マンガの中の坂田くんたちはうまく行ってはないけど、それでもぼんやりとでも確実にどこかへ進めていると思う(進む方向は別に前じゃなくていい)。

こういうエピソードでこの連載を締めくくれて、自分の中でもひとつケリがつけられた。まだ春が来なくても、今は次のことを考えている。

SPRING HAS COME(2)