『LONG SLOW DISTANCE』について

『LONG SLOW DISTANCE』という本を作った。久しぶりの自主制作になる。巻末に掲載した解説ではカットさせてもらったが、この作品の制作経緯について書いておこうと思う。

この作品は、元々とあるマンガ雑誌に連載するために準備された。記憶では2022年の春頃にそういう依頼をいただいて、半年ほどかけてプロットやネーム作りを進めた。最終的に冒頭2話分のネーム(マンガのラフ)を描いて提出したが、編集会議でボツになった。理由も聞かせてもらったが、よくあるダメ出しクリシェのような内容だったし、自分にもそういう弱点の自覚があるので、要は「箸にも棒にも引っかからなかったのだな」と納得した。

ボツになった案にこだわっていてもしょうがない、というのはこの世の習わしで、マンガでもそうだし、普段会社で仕事をしてるときも心掛けていることだけど、この時は少し迷った。自分は「失敗してもそこから何かを学び、それを次に生かすことが成長なんだ」とか言う居酒屋説教みたいな考え方には1ミリも賛同しないのだが、このボツ案は捨てずにここからもっと面白いものを考えた方がいいのでは、と思った。

というのも、半年ほどこの作品に向き合っているうちに、登場人物について「彼らはどうすれば報われるんだろうか」と考えるようになっていたからだ。特に安田についてはかなり考えていた(染川と村上についてはある程度プロットは出来ていた)。愛着とかではないのだが、彼らをあっさり捨ててしまうのは忍びなかった。彼らがどういう答え(納得できる正解)を出すのか、という所までは行けなくても、どんな場所に辿り着くのか、は描きたいと思った。

そこで、当初は単行本1冊くらいのボリューム(200ページくらい)で考えていたプロットを圧縮して、物語を語り直すことにした。提出した2話分のネーム(70ページくらい)を削って再構成し、足りない部分や結末を新たに描き加えた。割合的には初期ネームを流用したのが60ページくらいなので、追加した部分とちょうど半々くらいになる。この作業はやっていてとても楽しかった。

再構成で変更したポイントは、染川をメインに据えたことだ。そうすることで、物語に一本の筋がきれいに通ったように思う。元は村上をメインに、中年男のブルースという感じで考えていたのだが、どうもしっくりこなかった。安田に関しては、どう描くかとにかく悩んでいて、その末に「描かなくても成立する」と考え、圧縮する過程でバッサリ削った。ここはもし連載で描いていたら苦戦する予感があったので、こういう形で着地できてよかったと思う。

この作品は自分の今までの作品と違い、セリフが縦書きでページは右開きになっているが、それは掲載予定だった雑誌に合わせたからだ。縦書きセリフはマンガのコマ内の人物に干渉しやすくて画面に収めるのに少し苦労したが、やってるうちにすぐ慣れた。今はどっちでも描ける気になったし、こだわりもちょっと薄れた。ただ、セリフを手書きしていく作業では、横書きよりも縦書きの方が書きやすかった。これはやっぱ日本語の構造というか成り立ちが縦書きなんだなと思わされた。

そういう感じで、『LONG SLOW DISTANCE』の販売や営業活動を細々とやりつつ、受かっていれば9月の東京と名古屋のコミティアに出ます。よろしくお願いします。
作品自体はこちらから通販で買えます(BASE)

もちろん、次の作品についてもずっと考えていますので、どういうものになるか未定ですが、こつこつと日々働きつつ、ビール飲みながら形にします。ではー!

『LONG SLOW DISTANCE』について

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