LONG VACATION5制作記

「LONG VACATION」第5話「サンセット」公開中です。

リンク〈LONG VACATION 第5話〉

去年に以上にコロナウイルスが猛威を振るっていたので、5月の連休もひたすら家でマンガを描いていた。おかげで今回はあわてることなく、早めに仕上げられた。

内容については読んでもらうとして、作画について少し。

前半で釣りをするシーンがあるが、釣竿の絵に苦労した。竿やリールはネットで画像を調べてだいたい把握していたが、実際に釣りをするときどういうムーブになるのかがよく分からなかった。

自分の釣りの経験だけではちゃんと絵にするのが難しく、いろいろ調べた。一番参考になったのはYoutubeだった。いろいろな人が「竿の構え方」とか「ルアーの飛ばし方」を動画で解説してくれている。画質もいいし、好きなところでストップできるので、絵の参考にしやすかった。

実は動画を参考資料にすることはちょくちょくあって、この「ロンバケ」でも「新幹線の車窓からの景色」や「フェリーの出航シーン」はYoutubeの動画をいくつか見ながら描いた。こういうのは旅行の思い出としてかなりアップされている。また前回のスケートボードのシーンも、Youtubeにあるスケートビデオを参考にした。

といった具合に、マンガ制作に有用なYoutubeだが、最近アプリを削除した。延々と動画を見てしまって、時間をムダにするからだ(特に土曜の朝)。あと広告もムカつくし(「AIであなたの車に最適のタイヤを見つけよう」なんてアピールにどんだけの意味があるわけ?)。

ただいつかは必要になって、また手を出すことになるだろう。ヤダネ〜。

LONG VACATION5制作記

LONG VACATION制作記4

コミックMeDuにて
「LONG VACATAION」第4話「フォトグラフ」公開です。
リンク〈LONG VACATION 第4話〉

今回の制作記は特記事項なしというか、書くのサボって時間が経ってしまったので省きます。見直すとタイトルは「スケートボード」の方がよかったな、と思っています。

ただ、作中に出てくる駅前集合のシーン(上画像)は、実際に近くの駅まで行って参考用に写真を撮って来ました。近所と言っても3駅ほど離れているので、自転車で行っても割としんどかったです。何の思い入れもない場所です。実際の写真と、自分がマンガにした時の絵の落差を見比べてもらえれば、ちょっとは面白くないでしょうか?

そんな感じで、この物語も地味に佳境に差し掛かっています。全6話の予定で、今は5話目の作画を進めています。今年のGWもコロナで鬱屈としたものでしたが、同じようにどん詰まりの休暇を過ごす町村が残りの数日をどう過ごすのか、バッチリ描きますんで楽しみにしててください。

ロケした写真
LONG VACATION制作記4

LONG VACATION 制作記3

「LONG VACATION」第3話「ビーチ」完成しました。
コミックMeDuにて無料公開中です。

リンク〈LONG VACATION 第3話〉

作業期間は9月中旬〜12中旬ぐらい。予定ではささっと描きあげて、2020年内に配信を目指してたのだけど、作業が遅れてしまった。おかげで元旦配信になったので、年始の挨拶代わりになって助かった。みなさん、今年もタフな1年になりそうですが、体を大事によろしくお願いします。

今回ラクダが登場するけど、むかし本当にこれくらいの距離で見て、その異様さに驚いたことがある。口の端から胃袋のようなもの(デュラというらしい)をベロベロと出して震わせ、映画やゲームに出てくる怪物のように見えた。

作業にかかる前に(そのころはウイルスの緊迫感も丁度ゆるくなってて)動物園に実物を見に行こうと思ったのだが、調べてもラクダってあまり飼育されてないみたいだった。いてもフタコブだったりして、近畿圏ではどうやら姫路の動物園に一頭だけいることが分かった。ただ、大阪から電車で往復3000円、ほぼ一日潰れることを考えると、今回も取材断念という結論になった。

それと、今回はペン入れをシーン別で進めてみた(いつもはページ順に描いてる)。テレビ「漫勉」を見てるとキャラクター別にペン入れする方がいたので、そのマネをしてみた。作業の進捗具合が把握しにくかったけど、描いていて楽しかったし、同じキャラクターや背景を連続して描くので集中できるし、スピードも上がった。今後もこのやり方でいこうと思う。ちなみに一番最後に描いたのは、ウィッカーマンのコマだった。

そのほか、気に入っているのは居酒屋の名前と、宿のオーナーがはしゃぐところ。沢渡の車はフォルクスワーゲンの「ゴルフ・カントリー」という車種が元ネタ。車はいつも苦戦するので、もっとしっかり描けたらなと思う。

この「LONG VACATION」は全6話を予定していて、今回で折り返しになる。後半はラストに向けて地味にグルーヴしていくので、2021年もお楽しみに〜。

LONG VACATION 制作記3

LONG VACATION 制作記2

LONG VACATION エピソード2「ビーチ」公開になりました。制作にあたった期間は7〜9月で、前回に続き連休が多くて助かった。

この2話目で主人公は休暇をとり、「小匙島」という島にバカンスに出かける。この島は架空の島で、名前のイメージは「小豆島」からとった。そういうのもあって、実際の小豆島まで雰囲気を見に行った方がいいんじゃないかと思っていた。取材したものそのまま作品に使うわけじゃないけど、浜の色とか、生えてる植物とか、建物の形とかを見でおけば、作画もラクになるだろうし。

ただまあ、行きませんでしたね。
コロナがなくても行ってなかったと思う。めんどくさいから。

作品の舞台や風景は、具体的な場所を描くより、記憶や想像をベースに「ない風景」を描くほうが楽しい。ディティールは写真を見たり、資料を探して参考にするけど、基本的にマンガは「ウソ」でいいと思っている。

例えば今回、新幹線のシーンは「ウソ」をついている。新幹線の窓はあんなに大きくないし、1列シートの車両も見たことがない(ファーストクラスみたいなシートがあるのかも知れませんが)。ただ「流れる車窓の景色」を描くなら、あれくらい広い窓の方が見栄えがいいいし、座席の前後関係を見せるなら「隣の座席」が邪魔になる。そういう都合を優先するのは、マンガ的なデフォルメだと思う。

フェリーもいくつかの記憶を混ぜ合わせて描いた。船内にうどん屋があるのは、鹿児島で桜島に渡るときに乗ったフェリーで食べた思い出からだ。味は思い出せないが、しみじみと旅情を感じた記憶がある。

最後に向かう遊園地「スペースランド」は大阪のエキスポランドのイメージ。今は別の商業施設になっているが、家が近くにあったので幼い頃から何度も訪れていて、記憶が濃い。廃業後の打ち捨てられた様子も写真に撮っていたので、それらを見ながら描いた。

絵に関しては、前回からアミの部分(中間色)をカラーにしている。これは自分のルーツであるダニエル・クロウズ「ゴーズトワールド」のマネ。印刷だと2色刷りはコストが高くつくが、Webならインクの問題はないのでやってみていいですか、と編集者に相談したらOKが出た。「Web掲載ってことの可能性を追求したい」みたいなプレゼンが効いたと思う。

作業としてはグレーで塗っていたのをカラーでやるだけでなので何の負担もないし、憧れの2色マンガが実現できたので、個人的にはすごく嬉しい。これはWebならではの強みだと思う。

ただ単行本にするときは、全部グレーに置き換える必要があるけど、それはまた別の話で。
印刷、Webの2バージョンを楽しんでいただけたらと思っています。
リンク〈LONG VACATION 第2話〉

LONG VACATION 3話目は2020年末ごろ発表を目指して作業を進めていますので、気長にお待ちくださいヨー。

LONG VACATION 制作記2

「LONG VACATION」制作記1

LV

この作品は2020年の正月から制作にとりかかったように思う。「思う」と弱腰なのはもうすでに記憶が曖昧だからだ。本でも映画でも2000年代の作品をいまだに「つい最近のモノ」と捉えてしまうような時間感覚で生きているので、年月を把握するネジを2〜3個落としてしまってるんですね。たぶん。

去年の暮れごろに、単行本『LOW LIFE』に向けて原稿の直しや印刷用のデータ作成をしていたころに、「次はどうしますか?」と担当の方から連絡があった。先方からの要望は特になかったが、自分から「あ、じゃあ次は続き物で」と言ってお願いした。

「LONG VACATION」の準備は割と時間をかけたと思う。結末までの道筋を決めずに描き始めるのは不安なので、実際の制作に取り掛かる前に、簡単なセリフとト書きでストーリーを作った。多分2月いっぱいまでかかったと思う。

それからそのストーリーを要約してプロットを書き、担当に送った。それから何度かやりとりを重ね、修正しながら1話目のネームが出来上がったのが4月の中頃だったと思う。「続きモノ」の第1話として、どうやったら興味を引けるのかがよくわからず苦労した。このころからはコロナの不安が世間的にも強くなって、家にいることが多くなった。作品制作に当てる時間が増えて助かったのだけれど、ニュースサイトばかりを追って作業にあまり手がつかなかったりと、メンタル面では不安定な日々を過ごした。

5月は大きな連休もあったし、コロナで仕事が減って会社も休みやすくなっていたので、制作時間が十分にとれた。夜中まで追い込まれて作業をしたりすることもなく、下描きからペン入れまで1ヶ月ほどで終わらせたと思う。

そのあとベタやトーン、セリフの作業にかかった。締め切りは6月中旬だったので余裕を見ていたのだが、仕上げ作業で思いのほか悩んでしまい、最後は滑り込みになった。何度も言っているが、長い作業の末にマンガの原稿を完成させても達成感はあまりなく、「変なミスしてないか」「面白くないんじゃないか」などいつも気を揉んでばかりいる。

内容については作品を読んでもらうとして、いくつか元ネタの紹介をしておきたい。ラストで主人公が観る映画は「I HATE YOU, MORE THAN I LOVE ME」というタイトルだが、これはアメリカのパンクバンドNOFXがこのコロナ期に発表した新曲「I Love You More Than I Hate Me」からとった。ちょうどネームを作成してるころにMVが公開され、ロマンチックなフレーズだと思い、いただいた。

あと主人公が唐揚げを揚げているコマで、片足をもう片方の膝に乗せて立っているシーンにも元ネタがある。楽しく料理をしているポーズとして考えたのだけれど、描きながらこれは絶対なにか元ネタがある、と記憶をたぐったら望月峯太郎の「ちいさこべえ」に、リツが正座でしびれた足をさすりながら台所に立つシーンに同じようなポーズがあった。多分これだろうと思うが、もしくはBOOWYのアルバム「INSTANT LOVE」の裏ジャケに載ってる布袋のポーズかもしれない。どちらも画像を貼るのは億劫なので、興味がある方は各自検索してください。

第2話は9月下旬公開に向けて作業を進めています。コロナも続くし、暑い季節になるけれど、みなさんどうか体に気をつけて、気長に待っててくれると信じてます。勝手に。

作品はコチラから!
LONG VACATION 第1話「ストレス」
(公開無料)

「LONG VACATION」制作記1

SPRING HAS COME(2)

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ようやくたどり着いた。1話目の「ビールを買いに」から2年が経った。最後はもう一度彼の話を描こうと決めていたので、色々と詰め込んでしまい、ラストエピソードは前後編になった。

元々「ビールを買いに」は自分が無職だったころの体験をベースに描いている。MeDuでの連載はそういった物語をやっていくつもりだったが、1話目以降はもう少しフィクショナルな話になっていった。多分そっちの方が上手くいくと思ったからだろう。自分の嫌な過去を振り返るのは気が重くなるし、楽しくない。それを作品にしていく作業は誇張ではなく膨大なエネルギーがいる。だって数ヶ月間ずっとそのことを考え続けるわけだから。そこから少し離れて、気楽にマンガに取り組むようにした。気楽といっても真剣だったし、実際それで気に入った短編がいくつも描けた。

ただ最後にもう一度「ビールを買いに」に戻ったのは、一連のラストにふさわしいと思ったからだ。あのどこへも行くあてのない状況から、自分の人生は少しずつ変化し、どこかへは進んでいるはずで、それはこの物語の主人公たちも同じだろう。確実にある彼らのその後、そのわずかな変化だけでも示したかった。

なので「SPRING HAS COME(1)(2)」はもう一度昔のことを思い出しながら作った。描かれた職業訓練も実際に自分が受けた体験を元にしている。作中の専門学校の建物もその時に通ったビルをモデルにしていて、学校自体はもう移転してしまってあの建物自体は取り壊されたみたいだけれど、内部の教室も含めて薄い記憶で描いた。実際の訓練はもう少し本格的で、印刷についての講義や協力業者に派遣されて実務体験などもした。受講前には入試のようなものもあったと思う。

漫画の中でオニさんは「こんな授業に意味はない」と言ってたが、自分はこの訓練を受けて、デザイナーとしてなんとか仕事を見つけることができたし、意味はあると思っている。

仕事がない状態というのは、この世の中に自分の居場所がないということを嫌でも実感させられる。働くことが生きることのすべてではないと分かっていても、だ。前作「ビールを買いに」ではその居場所のなさを描いたつもりだ。

自分もいつ無職に戻るかわからない身分だけど、いまあのキツさを味わってる人がいるなら「こういうステップもある」と知ってもらいたい。

何もない無職の状態から、いきなり面接を受けて就職というのはイメージしずらいし、うまくいくのか不安になるものだと思う。そういう場合に、職安や職業訓練といった機関を利用するのはいいと思う。0から1に進む前に、0.2、0.5と準備のステップを踏んで、働くことやそんな自分を少しずつでも想像していけるだろう。

マンガの中の坂田くんたちはうまく行ってはないけど、それでもぼんやりとでも確実にどこかへ進めていると思う(進む方向は別に前じゃなくていい)。

こういうエピソードでこの連載を締めくくれて、自分の中でもひとつケリがつけられた。まだ春が来なくても、今は次のことを考えている。

SPRING HAS COME(2)

SPRING HAS COME (1)

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MeDuにてマンガ「SPRING HAS COME(1)」が公開されました。以前の「ビールを買いに」の主人公のその後の話で、彼が大学を卒業して何もしないまま時が流れ、季節は一巡して、また春が来る、という感じです。真夏にこんなタイトルで公開かよ、とも思いますが、この1周回った感じが欲しくてこのタイトルにしました。(1)ということは、もちろん(2)に続きます。次でラストになります。乞うご期待。

内容については読んでいただければと思いますが、細かい部分の解説を少し。今回はグラフィックデザインの職業訓練を受ける話になっていて、そのデザインを絵で見せる必要がありました。またその意匠は単一ではなく、各キャラクターごとのテイストや意味を持たせ、かつ説得力のあるものにしなければなりませんでした。それらを一つひとつ自分の中から捻り出すと、どうしても同じ様なものになってしまう。どうしたものかと考え、元ネタを用意することにしました。以下はその解説です。

 
眼鏡の女性(須永英子)のデザイン

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彼女が家でひっそりと作り続け、講師に見せたデザインの元ネタは「STOMACHACHE.」というイラストレーター(ユニット)の「PAPER AND PEN, STORY」という作品集です。真似しようとしてもできない唯一無二な存在感と、ほんのり漂う不気味さ。仕事スレしていないインディーズな感じがこのキャラクターにぴったりだと思い参考にしました。具体的には「顔を塗りつぶされた人物」「添えられた少し不思議な英文」「DIY・スケート・zineなアメリカっぽさ」を真似ています。この本をどこで購入したのか覚えていませんが、見返す度にやられます。

 
講師の展示会などでの作品

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この講師はデザインの仕事をプロとしてこなしている人です。なので実際の広告として成立する完成度(とハッタリ)がないとダメだと思いました。そこで自分が勤める会社の資料棚にある「ADC年鑑」を参考にしました。ADCとは「東京アートディレクターズクラブ」のことで、いわゆる日本のグラフィックデザインのトップランカー達の会員制組織です。その組織が毎年「この広告が良かった」というものを集めたのが「ADC年鑑」です。特に90年代の年鑑数冊に目を通し、絵になりそうなもの(自分がマンガに描けそうなもの)をいくつかメモし、参考にしました。いくつもの広告を見ていると、複雑でニュアンス的なものが多く、シンプルな絵で再現できそうなものは意外と少なかったように思います。

 
事務所のソファーの柄

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これも自分の憧れのライター、マイク・ジャイアント(イラスト・タトゥー・グラフィティ)の絵柄を真似ています。ソファの柄はこれから起こることを予感させる、ちょっとエロくてケバいものにしたかったので、そういうモチーフを考えたのですが、自分は繊細で耽美な絵は描けないので、じゃあこの人の絵だろ、と割とそのまま描いています。

 
コンドームの箱

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独身であるどころか女っ気ゼロの中年童貞の自分の手元には、コンドームの資料なんてこれしかありませんでした。「キラー・コンドーム」という映画のコンドーム型パンフレットです。映画の物語はあまり覚えていませんが、牙の生えたコンドームが男のアソコを襲う、という内容でそのクリーチャーのデザインはH.R.ギーガが行っています。映画のB級感もあって、オチに間抜けさが出たと思います。
今回に限らず、マンガを描く時は大なり小なり元ネタやイメージソースがあり、それらを全て開示することはしていません(物語の解釈が狭まると思うから)。ですが今回は、意図的に参考物を用意して描いたものを僕の100%オリジナルと解釈されると語弊があるので、元ネタの紹介をしました。

それでは、次回「SPRING HAS COME(2)」もお楽しみに!

 

 

 

SPRING HAS COME (1)

lastsamurai

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MeDuにて新作「ラストサムライ」公開しています。無料公開です(リンク

もう6本目なのか、もしくはまだ6本しかないのか、この2つは同じようで全然別の態度だよ。どうして「まだ」って思えないのかな〜。というような説教を昔、貧相な餃子屋で聞いたことがあります。得意そうに語ってましたね、全然知らない人が。

この作品は最初「さーくるキッズ」というタイトルで、園長を主人公に考えていました。「厳しく正しい園長 vs けったいな男・鎌田」という構図で考えていて、ギスギスした話を構想していました。そのまま進めて行くとラストはどうしても血なまぐさいものになる雰囲気だったのですが、前回の「STORM」で暗い話を描いたので、今回はもっとライトサイドに寄せようと思いました。

そこから話をこねだして、保育士たちを登場させて鎌田と対立する役を園長から移し、園長は両者の間に入る緩衝剤(両者の愚痴を直接ぶつけ合わないようにする役)になってもらいました。こっちの方が実際の園長の仕事らしい気がしますし。大変そうですが。

さらに子供たちにも出てきてもらい、鎌田や保育士、保護者との関係性が立体的になるようにしました。立体的というのは、それぞれがお互いに立場があってつながりを持っているということです。特に園児ハルトと鎌田の関係は、描いているとだんだん映画「パーフェクトワールド」や「グラントリノ」を連想するようになり、鎌田の顔がイーストウッドに見えなくもないぞ、と本気で思うようになりました。これは、自分が去年イーストウッドの映画が盛り上がって、立て続けに観た興奮がずっと尾を引いている錯乱気味の精神状態というだけでしょう(「運び屋」もまさかって感じで最高だった)。

鎌田はもともとは眼鏡をかけた気の弱そうな(でも目つきがちょっとやばい)腹の出た中年男をイメージしていました。ただ「ちゃんばらをする」というアイデアがあったので、そのシーンの参考にと平田弘史先生の作品を読んでいるうちに、ご本人のインタビューに関心が移り、そのまま鎌田のイメージになっていきました。目尻の下がった細い目や、ちょんまげ風に結わえた髪型はそこから来ています。

そのおかげで鎌田はずいぶんカラっとした人物像になり、ストーリーの重点も彼に移って行きました。そして描き上げたあと読み返すと、どう考えてもタイトルはこれしかない、と思い「ラストサムライ」になりました。スタートとゴールでかなり印象が変更した作品です。

また、保育園を舞台にしましたが、「保育所」「幼稚園」と何が違うのかも分からない上に、現場の風景も幼少期のかすかな記憶しかないので、小さな子供のいる知り合いらに話を聞いたり、写真を見せてもらったりしました。その中で子供のケンカやケガについて聞いたところ、「うちの子はこの前、腕に血がにじむくらいの歯形つけて帰ってきましたよ」という返事があって、「ウォーキング・デッドじゃん」と思いました(観てませんが)。

MeDuではあと2本掲載される予定です。バッチり決めますんで、気長にお待ちください。

lastsamurai

STORM

storm_blog

MeDu掲載短編の第5弾「STORM」が公開されました。幼い息子を亡くしてしまった夫婦の、ある一夜の物語です。ヘヴィな2019年1発目ですが、ぜひお読みください! 無料公開です(リンク)。

去年(一昨年?)に話題になっていた映画「この世界の片隅に」を、自分は会社の半休をとって平日朝一番の回を観に行った。絶対泣くと確信していたので、できるだけ人の少なそうな時間を狙ったのだ。案の定オープニングで「悲しくてやりきれない」が流れた瞬間から号泣。あの物語のすべてがこの曲に濃縮さてれいるように思った。それからずっと半ベソかきながらの映画鑑賞だった(そして感情決壊が怖いので二度とこの映画は観れない)。

そのこととは関係なく、今回の「STORM」は、前からあった「悲しくてやりきれない」話を描きたい、というアイディア。ただどういう風に描けばいいのかが分からず保留にしていた。不幸や悲劇だけを描くと陳腐だし、下手に描くと悪趣味で、配慮に欠けたものになりそうだった。

ただ一年通してMeDuに描いて、マンガ経験値を多少積んだつもりだったので、挑戦してみる気でストーリーを書いてみるとすんなりと形にできた。昨年関西を襲った台風の経験もその原動力のひとつになっていると思う。

まあ、そこから実際のマンガに描き起こしていく段階では、すんなりとはいかず色々と大変だったのですが、結果こういう風にまとまった、という作品です。読む人によって受け取り方はそれぞれだろうし、「ここはこうなんです」と指定したくないので、内容については解説しませんが、描いている間は割とフラットな感情で作業をしていました。

前作4本と比べて、明確なバックボーンや元ネタみたいなものはなく、よく分からないところから「ゴロっ」と出てきた作品、という感じがします。「悲しくてやりきれない」というフレーズが好きなだけなのかも知れない。

小さな動機で言うと、前作「HIKING」が色々と背景が替わって大変だったので、次はワンシチュエーションにしたかったというのがあります。そこそこ稼いでいる家族の広めのマンションという設定で、その間取り図を考えるのが楽しかった。

STORM

HIKING

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MeDu掲載第4弾、「HIKING」公開されました。定年後、なんにもすることがないおじさんがハイキングのツアーに参加する、という短編です。ぜひお読みください!(リンク)

朝、大阪駅の周辺に行くと、これからどこかに出かけるツアーの集団をよく見かける。若い人たちのスノボ行きシャトルバスだったりもするが、大抵はおばさんたちの日帰りツアーっぽいやつ。一様にモンベルなんかのウエアに、帽子、リュック、登山靴で身を固めている。何人かずつの輪になって楽しげにおしゃべりしているのはおばさん達で、そこから2、3歩離れたところでおじさんが数人、所在なさげに立っている。一人で参加したのか、もしくはおばさん達の誰かのダンナで、夫婦で申し込んだのか分からないが、つまらなそうに集まっている。居心地の悪さを消すためか「どうでもいいけど早くしてくんねーかなー」というふうの横柄な態度で自尊心を保とうとしている感じが、はたから見ていて面白い。

それでも腰の低いおじさんは、おばさん連中と仲良く雑談をする。「昨日の夜2時に目が覚めちゃって、全然寝てない」とか「お元気ですね、僕の荷物も担いでもらおうかしら」とか言って笑いあっている。そんなおじさんを、集合場所の隅にわだかまっている方のおじさん達は快く思いません。「なんだアイツ、男のくせにヘラヘラと」と軽蔑の眼差しを送る。そしていまいましげにタバコを吸うと、別のぼっちおじさんに「俺ぁ最近タバコ辞めたんだから、クセエな」と言わんばかりに煙たがられている。

まあ、全て想像だけれど、通勤途中にそういう集団を見かける度に「いいな」と反応してしまう。それは多分そこに自分を見るからだろう。

おばさんは大抵どこでも(うっとうしいくらいに)元気で楽しげだ。そしておじさんは大抵、陰気でつまらなそうにしている。これは自分の両親にしてもそうで、色々趣味を持って出かける母と、近所をちょろちょろ自転車で流すだけの父。男女の差なのかもしれないが、実家に帰るたびに部屋でひたすらイラストロジックという本を塗りつぶす父に「楽しい?」と聞いたら、即「ぜんぜん」という言葉が返ってきた。自分もいずれ歳をとればそうなるんだろうか、というか既に今でも休日はビールを飲んで部屋でだらだらするだけだしな、と思うとそれ以上話を続けられなかった。

そういうところが、この作品の出発点になっていると思います。

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HIKING